兵庫県の斎藤元彦知事が9月26日、県議会が全会一致で可決した不信任決議を受け入れ、30日付で失職し、出直し知事選に臨む意向を表明した。県議会が全会一致で不信任決議を可決したため、29日までに議会を解散するか、辞職あるいは失職する判断を迫られていた。斎藤知事は知事職を退き、県民の判断を仰ぐことになるが、斎藤知事や県幹部の疑惑が解消されたわけではない。これまで報じてきた斎藤知事の疑惑を、改めて振り返る。(この記事は「AERA dot.」で2024年7月25日に掲載した記事を再編集したものです。肩書や情報は当時のまま)
斎藤元彦・兵庫県知事を告発した元・西播磨県民局長が疑惑解明の渦中に死亡した。抗議の自死とされるが、命を賭けての訴えの経緯をみていくと、公益通報制度などに照らして県は重大な問題をいくつも起こしていたようだ。職員に対するパワハラなど「7つの疑惑」を調べる県議会の特別委員会(百条委員会)は調査継続の意向を示しており、県が元県民局長を早々に懲戒処分にしたことへの批判も高まる。追及はさらに加速しそうだ。
元県民局長は、斎藤知事による選挙違反や公金の不正支出、県職員へのパワハラなどの疑惑を告発したが、斎藤知事や県はこの内容を「核心部分が真実ではない」などとし、元県民局長を停職3カ月の懲戒処分にした。県議会は疑惑の解明にあたるため百条委員会を設置、元県民局長らを証人として尋問する予定だったが、元局長は7月、死亡した。
七つの疑惑
元県民局長の告発文書は7つの疑惑について記載していた。
① ひょうご震災記念21世紀研究機構理事長の五百旗頭真氏が急逝した前日、斎藤知事の命を受けた副知事が五百旗頭氏宅を訪れ、機構の副理事長2人の解任を一方的に通告した。
② 2021年の知事選で、県職員4人が斎藤知事への投票を依頼する事前運動をした。
③ 斎藤知事は2024年2月、但馬地域の商工会などに出向き、次回知事選での自分への投票依頼をした。
④ 斎藤知事にはおねだり体質があり、知事の自宅には贈答品が山のように積まれている。県内企業からコーヒーメーカー、ロードバイク、ゴルフクラブのセット、スポーツウェアをもらった疑いがある。(※コーヒーメーカーは視察同行の部長が受け取って保管していたことが判明)
⑤ 政治資金パーティーに際して、県下の商工会議所、商工会に対して圧力をかけ、パー券を大量購入させた。
⑥ プロ野球の阪神・オリックスの優勝パレード費用を捻出するため、信用金庫への県補助金を増額したうえで、それを募金としてキックバックさせた。
⑦ 斎藤知事のパワハラは職員の限界を超えている。執務室、出張先に関係なく、自分の気に入らないことがあれば関係職員を怒鳴りつける。
知事は会見の場で、「事実無根の内容が多々含まれている」「うそ八百含めて文書を流す行為」などと否定した。しかし、この発言から約4カ月が経過したが、この間に行われたのは元局長の懲戒処分だけで、疑惑のひとつひとつについて、否定の根拠や証拠を示しての説明は行われていない。
オリックスパレードの問題(⑥)は、これが事実であれば公金の不正支出の可能性があり重大問題である。事実無根ならば、説明責任を果たして疑いを晴らす必要があるが、突きつけられた疑惑をそのまま放置してしまっている状態だ。
積み上がるパワハラ疑惑
一方で、パワハラについては、県議が行ったアンケートによって、この間に次々と事例が積み上がっている。エレベーターに乗り込む際に自動ドアが閉まりそうになったことに激怒し職員を叱責▽浴衣祭りの着替え場所が気に入らず苦言▽同じ浴衣祭りで自分だけプロの着付けを求める、などだ。ひとつひとつは取るに足らないことのように映るが、優越的地位を背景にした言動であり、事実無根などとはとても言えない。
公益通報などの観点から、県の対応にはいくつもの問題がある。