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つれづれなるままに日暮らし

唐大和上東征伝(高山寺本)

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 『唐大和上東征伝』は、宝亀十年七七九)に淡海真人三船(元開)が著し鑑真伝記で、鑑真従僧思託の撰した『大唐伝戒師僧名記大和鑑真伝』(三巻)などをもとに一巻にまとめたもので、思託の撰した伝が失われたため、この『東征伝』が鑑真伝記基本資料となっている。
 本帖は、その平安時代後期古写本で、体裁粘葉装地の原表紙を存し(裏表紙は後補)、中央に「唐大和上東征傳一帖鑒真傳也」と外題があり、左下に「使唐沙門章觀之」と墨書があるが「章觀之」の三文字は墨で抹消されている。本文料紙楮紙で、半七行に押界を施して用い、通帖一筆書写し、文字誤脱等を同筆にて補っている。本文中、鑑真将来品目を掲げた箇所などに、ところどころ余白があるが、これは親本の欠脱等をそのまま空白にして書写したもの考えられ、誤脱訂正あわせて書写態度厳正であったことを窺わせている。尾題と「寶龜十年歳次己未二月八日己卯撰」の撰述奥書についで、元開、思託石上宅嗣らの鑑真追悼の詩七首収め、帖末には「交畢」の校合奥書老後金峯山寺施入すべき旨の奥書本文同筆書かれている書写奥書はないが、表紙にみえる章観については、高山寺典籍文書類重要文化財)のなかに同人書写した本があり、本帖はそれらと同筆であることから、十二世紀中葉頃の章観の書写になることが判明する(ただし章観の伝記等は未詳)。
 本帖は首尾に「高山寺」の方印が捺され、また表紙に「五十五箱」と朱書があるのが鎌倉時代高山寺聖教目録記載合致して、もと高山寺伝来したことが知られる。『唐大和上東征伝』の最古写本としては、十二世紀前半頃の書写になる観智院本が知られているが、本帖はこれにつぐもので、観智院本等の諸本比較して字句等に異同があり、『東征伝』の本文研究上に重要な写本である。