・Digital Butterfly Economy
http://wirelesswire.jp/digital_butterfly_economy/
株式会社企(くわだて)代表取締役 渡辺 聡氏によるコラム。技術が社会にどのように溶け込み、産業と生活を変えるのかを解き明かします。最近の動きが早くてさっぱり先が読めない、という人のためのヒントです。
・自律分散協調の思想
http://wirelesswire.jp/k_hasida/
東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター 教授 橋田浩一氏
によるコラム。中央集権型のシステムから自律分散協調型のシステムにすることで世界がよりしなやかで豊かになるという視点から近未来の技術と社会について語ります。これは、システムの元になるデータを集中管理ではなくデータの発生源である個人が管理するとどうなるかという、パーソナルデータの話に密接にかかわるお話です。
JINS MEMEがもたらすかもしれない「社会のしくみ」の変化
JINS MEME発表会に行ってきました。案内が来た時は「JINS=メガネ=GoogleGlassの類似品が出るのかな。でも今から参入しても遅くない?」みたいに考えていたのですが。
・「外を見る」から「自分を見る」へ−世界初・三点式眼電位センサーで視線を可視化するセンシング・アイウェア「JINS MEME」発表
http://wirelesswire.jp/Todays_Next/201405131841.html
コンセプトは「自分の中を見るメガネ」と言われた時には「何を言ってるんだこの人は」と思い、「新製品の登場です!」と覆いをはずされた台上に何も見えなかった時には「バカには見えないメガネとかそういうオチか?!」と一瞬悩みましたが、説明を聞いて納得。アイトラッキングセンサーがメガネについた、加速度センサーと視線センサーを合わせて取得できるデバイスで、より正確に体の動きや状態を把握できる、というものでした。
タッチアンドトライで実際に試してみたのですが、普通の眼鏡に比べても軽く、違和感がありません。耳の裏に加速度センサーと角速度センサーがついていて、こちらが少々位置合わせがシビアだったり髪がはさまるとうまく動作しなかったりとまだ改善の余地はありそうでしたが、視線を動かすだけでiPhoneのホーム画面をスライドさせられたのは感動しました。
・疲労や眠気を見える化するメガネ「JINS MEME」--目の動きでスマホも操作(CNET Japan)
http://japan.cnet.com/news/service/35047830/
製品開発の経緯が詳しいです
・「人機一体」こそウェアラブルの本質??JINSがまんま“メガネ”の新デバイス
「JINS MEME」を2015年春に発売(TechCrunch Japan)
http://jp.techcrunch.com/2014/05/13/jp20150513jins-meme/
共同研究者のコメント。
さて、この端末のインパクトなのですが、人間の「目」を情報の入力端子ではなく出力端子として扱うという逆転の発想がまずあります。昔から「目は口ほどにものを言う」という通り、目は視覚による情報入力だけでなく人の状態や考えていることを出力する「自然に備わったディスプレイ」でもあったわけですが、スマートフォンなどのいわゆる「情報端末」は、主にディスプレイという視覚を通して情報を入手するためのデバイスでした。Google GlassやGalaxy Gearなどのデバイスもその延長上にあります。
一方で、情報端末、特にウェアラブルの潮流として、医療やヘルスケア方面のソリューションとして「自分の身体をモニターする」ための端末、具体的には腕時計型の活動量計や、最近ではウェアに使えるまさ「着る」繊維といったものが注目されはじめています。
・歩数も眠りも計れるウエアラブル活動量計、何ができるの、楽しいの? (日経トレンディネット)
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20140414/1056642/
・着るだけで心拍数を測定できる機能素材「hitoe」、東レとNTTが開発 ドコモが年内に商品化 (ITmedia ニュース)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1401/30/news125.html
・女性目線で作られたブレスレット型ウエアラブル(KDDI TIME&SPACE Online)
http://time-space.kddi.com/news/news/20140306/index.html
これらのデバイスでは加速度センサー、心拍数、筋電位などがデータとして利用されていたのですが、JINS MEMEでは「視線」と「頭の動き」を利用したアルゴリズムで、従来難しかった疲労や眠気の数値化を実現しました。目の前にいる人の目がしょぼしょぼしたりおよいでいたりすると、私達は「疲れていそうだな」「寝不足なのかな」と思うわけですが、それを機械で判定できるようになるというわけですね。
視線を測定するアイトラッキング技術はカメラを利用したものや電極を頭に着けるものなどが既に実用化されており、市場調査やデジタルサイネージと連動したコンテンツ表示などに活用されています。
・トビー・テクノロジー | Tobii Technology K.K.
http://www.tobii.com/ja-JP/eye-tracking-research/japan/
アイトラッキングシステムの例が、「日常的に身に着けて歩く」ものではなかったし、そのデータを本人のものにする仕組みがありませんでした。それが、「アイウェア」のブランドであるJINSから出てくることで、「常にアイトラッキングが可能で、そのデータは本人が管理できる」時代が来るのです。これが2つめのインパクトです。
視線データを眠気アラームや疲労測定に自分で使用するのだけでなく、視線データを外部に提供することでさまざまなサービスが考えられます。ジェイアイエヌもサービス開発者に向けてAPIを提供する方針を発表しており、まばたきの回数・時間、視線の方向、3軸ジャイロセンサーデータ、3軸加速度センサーデータ、精神疲労度、眠気、歩数/速度、消費カロリー、姿勢のデータが取得できます。さまざまな可能性が広が
りそうですが、一方で、「自分の疲労度」や「見ているもの」が第三者に筒抜けになってしまう可能性もあるのです。新しいプライバシーの問題になることは容易に想像がつきます。
本日公開した「プライバシーとパーソナルデータ」特集では、パーソナルデータを利用する事業者に話をうかがっていますが、
・「パーソナルデータ利用に関する事業者サイドの課題意識と業界自主規制(1)」
http://wirelesswire.jp/privacy_and_personal_data/201405141000.html
さらに新しい課題を突き付けるものになりそうです。
さまざまなサービスの可能性が考えられますが、一方で、社会の仕組みや産業構造自体に見直しを迫ることになるかもしれません。活用事例として紹介されていた「運転中に眠気が強くなったらアラートを発生させる」というアプリは比較的わかりやすい事例ですが、この延長には「自動車保険の支払時にこのメガネをかけていなかった場合/かけていたとしてもアラートが出ているのに運転していた場合、保険金は支払わない」といった未来があるかもしれません。あるいは、「運転手の過労による事故を防止するために、バスやトラックのドライバーは運転中に装着しておくことを義務付ける」といった法律ができたとしたら、現在の人員ではシフトが組めなくなる会社もたくさんありそうです。
と、危うい側面を持ちながらもなおかつさまざまな可能性を妄想させる新しいデバイスが日本から誕生したというのは嬉しいなと率直に思いました。今後どうなるか、注目したいと思います。